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    願いが叶う不思議な食堂

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      評価:
      小川 糸
      ポプラ社
      ¥ 1,365
      (2008-01-10)

      失恋によるショックで心因性失声性になり言葉を失った、このお話の主人公、倫子。
      彼女は自分の名前が嫌いだった。
      この名前は、彼女の母が付けてくれたのだが、彼女の母はスナックのママで、
      ママ曰く、「不倫相手の子どもだから倫子」という由来らしいからだった。
      だから、倫子は母が嫌いだった。
      その代わりに、祖母は大好きだった。
      倫子に、料理とはなんなのかを教えてくれた人だったからだ。

      倫子は、失恋の時になくしたものは他にもあった。
      彼女がアルバイトから帰ると恋人はもちろんこと、部屋にある家具や物品の全てがなくなっていた。……残ったものは祖母の形見でもあった"ぬか床"だけだった。
      このぬか床は、明治生まれの祖母が、その母から譲り受けたもので、おそらく江戸時代からずっと存在しており、作ろうとしても作れないし、買おうと思っても買うこともできない。

      まず最初に、倫子がしたことは、人とのコミュニケーション。
      単語カードに、一通りのあいさつを書き、最後に'私はわけあって話すことができません'と書いた。
      その他のことはノートに書いて伝えることにした。

      彼女は、実家に帰って小さな食堂をすることにした。
      食堂の名前は『かたつむり食堂』。
      人生を一から、やり始めた女性が、選んだ道は料理人への道。自分の食堂を作り、お客様のために作る料理の場であり、食べてもらう場は、その食堂であり、その食堂とは一心同体だ。しかし、逆に、一度殻にこもってしまえば、そこは自分にとって「安住の地」以外のなにものでもない。
      『かたつむり食堂』とは、そんな、倫子の自身の家とも言える場所として名付けられた。

      かたつむり食堂を建てる中で、
      倫子は、お手洗いだけは、他のところは切り詰めてもお金をかけて綺麗に作った。
      倫子自身も、プロの料理人として頑張ろうと決意のために、
      バリカンで自分の髪の毛を短く切ってもらった。
      さらに、彼女は、異物混入を防ぐために、いっそのこと眉毛も剃ってもらおうかとするが、
      さすがにそこまでしてしまったら、お客様に恐い思いをさせてはいけないと思い、直前で踏みとどまった。
      そのだけ、彼女の決意は堅いということなのでしょうね。

      かたつむり食堂の営業方法は、ちょっと変わっている。
      形式は一日一組。
      前日に、お客様と面接もしくはファックスやメールで遣り取りして、
      何が食べたいか、家族構成や将来の夢、予算などを細かく調査する。
      食事スタートは夕方の6時から。
      名前の相応しく、ゆっくりと時間をかけて味わってもらいたいから時計はおいておかなかった。
      食堂内は、もちろんすべて禁煙。
      音楽はかけずに、厨房から聞こえてくる料理の音や外から聞こえてくる鳥や生き物の気配を感じてもらおうと思った。

      そして倫子は、料理をする時は、ちょっとした儀式をする。
      洗い立ての手のひらで、食料に触れると、産まれたばかりの小さな命を慈しむように、ひとつひとつ、両手で持ち上げて顔の近くまで抱き寄せて、目を閉じたまま、数秒間、食材と言葉を交わす。食材は言葉を発さないが、どういった人に食べてもらいたいのか、どんな料理にしてもらいたいのかを食材から感じたいのだ。

      しかし、どんなに丹精込めて作っても、相手に食べてもらう時は相手の顔を見ることが出来ない。
      どうしても恋人以外として、自分の料理を食べている人の顔を、真正面から見ることが出来ないのだ。
      これは、倫子が、大人になっても自分に自信が持てていないということと、小心者の女の子であることが伝わってくる。それに、これは愛情を込めて作っているから余計に恥ずかしくなるのかもしれない。

      話は、飛びますが、
      倫子の料理はいろんな人を救っていった。
      ずっと愛人を夢の中で待ち続けた人や、拒食症のウサギ、両思いになりたいいう高校生カップル。
      彼女の作る料理は、不思議な力があった。
      倫子は最後に、自分も救われた。
      大嫌いだった母を癌で亡くし、大嫌いだったはずなのに後悔だけが残っていた。
      倫子は、いつしか食堂を開かなくなっていたが、
      突如、母に「食べ物を粗末にしてはいけません」と言われた気がし、
      自分のために料理をする。
      彼女をやっと救われた気がした。
      そして、なくしたものをひとつ取り戻した。
      「ありがとう」と
      彼女は母に言った。


      ここからは、『かたつむり食堂』の不思議に思ったことを考察していく。

      ○倫子は、なぜ話せなくなったのだろうか?
      失恋からきた精神的なショック、つまり一種のヒステリー症状ということなのかもしれない。
      しかし、彼女は、言葉がでなくなったというわけではなかった。
      −自分の声が透明になっているということ−
      そして、声だけが、組織からすっぱりと抜け落ちた。声を喪失した。
      倫子は、こう言っている。
      −私は、もう誰とも話したくないと思っていたので丁度いい−

      恋人を(いなくなったと言う意味で)なくして、全てをなくし、
      もはや、人生がどうでも良くなった彼女に、
      料理の神様が、倫子に罪を与えたのではないのか。
      最後に、料理で自分も救っている。
      救っているというか、神様が「ご苦労様」という意味で倫子に声を返したのではないだろうか。

      ○倫子は、どうして実家に食堂を建てて、料理人として人生をやり直したのか?
      これは、最後に残ったものが"ぬか床"だったからでしょう。
      ぬか床は、祖母が残してくれた倫子の宝物。
      祖母には、大好きな料理を、生まれて初めて教えてくれた人。
      だから、ぬか床が残ったために倫子は料理人しか頭に残っていなかったのだと思います。

      ○その他、
      倫子の名前は、不倫の子という意味でしたが、
      実は違いました。
      子を産んだ、母が、そんな意味で付けるわけありませんからね。
      本当の意味は、まじめに、一生懸命、倫理を守って生きて欲しい。
      スナックのママをしていた母が倫子には、こんな風になって欲しくないという思いからつけました。
      しかし、子は親に似ますからね。
      倫子も、道は違っていても母と同じような道を辿っているように思えました。



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